Webサイトの多言語化、どの方法で進める? 人手翻訳・機械翻訳・ポストエディットの選び方

結論から言うと、サイト全体を1つの方式で翻訳する必要はありません。ページの重要度と更新頻度で分類し、「人手翻訳」「機械翻訳(MT)」「機械翻訳+ポストエディット(MTPE)」を使い分けるのが、費用と品質のバランスを取る現実的な進め方です。この記事では3方式を翻訳品質・更新頻度・費用・専門用語の4軸で比較し、どの範囲にどの方式を割り当てるかを決める手順まで示します。
3方式を4軸で比較する
人手翻訳:品質の上限が高く、更新に弱い
プロの翻訳者が訳し、別の担当者が対訳でチェックする方式です。表現の自然さ、文化的な前提の置き換え、訴求順の組み替えまで踏み込めるため、ブランド表現や法的な記述を扱うページでは依然として基準になります。弱点は時間と費用です。日本翻訳連盟(JTF)が示す発注価格の目安は、和文→英訳で原文1文字あたり20〜30円、英文→和訳で原文1ワードあたり26〜35円(いずれも分野別・税別)。たとえば和文1,200文字のページを25円で見積もると1ページ3万円、20ページで60万円という規模感になります。更新のたびに同じ単価が発生するため、週次で文言が変わるページには向きません。
機械翻訳:速度と限界費用が強み、責任の所在が弱点
ニューラル機械翻訳や大規模言語モデル(LLM)による翻訳は、公開までの時間をほぼゼロにできます。費用は文字量に応じた従量課金と、翻訳管理ツールや翻訳プロキシの固定費に置き換わり、ページ数が増えても単価が急には膨らみません。一方で、誰も内容を確認していない訳文を企業名で公開することになります。価格・保証条件・安全上の注意など、誤訳が実害につながる記述には使えません。機械翻訳の到達点を示す研究報告では、自動評価指標で見る限り最良の機械翻訳システムが多くの言語で人手翻訳と同等以上のスコアを得ています。ただしこれは自動指標による評価であり、固有名詞や慣用表現の扱いには依然として差が報告されています。「平均的には高品質、ただし外し方が読めない」と捉えるのが実務的です。
MTPE:更新の速さを保ったまま品質の下限を上げる
機械翻訳の出力を人が修正する方式で、国際規格 ISO 18587 が作業プロセスとポストエディターの能力要件を定めています。意味の誤りだけを直す「ライトポストエディット」と、人手翻訳と同等の品質を目指す「フルポストエディット」があり、どちらを適用するかは発注側の仕様で決まります。つまりMTPEは単価が安い翻訳ではなく、「どこまで直すかを発注側が指定する翻訳」です。指定が曖昧なまま依頼すると、期待した品質と納品物がずれます。なお ISO 18587 は改訂作業中で、改訂版は対象を「人以外による翻訳出力」と表現し、顧客要件やリスク評価への比重を高める方向で検討されています。
専門用語は方式選びより前に決まる
4軸のうち専門用語の扱いだけは、方式の選択よりも準備の有無で決まります。製品名、機能名、職種名、単位、表記ゆれ(半角・全角、ハイフンの有無)を用語集にまとめ、過去の訳文を翻訳メモリ(TM)として残しておけば、人手翻訳でもMTPEでも、機械翻訳の用語指定機能でも同じ資産を使い回せます。逆に用語集がない状態では、人手翻訳に発注しても訳語は翻訳者ごとに揺れます。多言語化の最初の作業は見積依頼ではなく、用語集とスタイルガイドの作成だと考えてください。
公開方法の制約を先に確認する
方式を決める前に、公開形態の要件を押さえておくと手戻りを防げます。Google は言語ごとに別のURLを用意することを推奨し、Cookieやブラウザ設定でページ内容を切り替える方法は勧めていません。クローラーは主に米国から、Accept-Language を付けずにアクセスするためです。言語版どうしは hreflang で、自分自身を含む全バージョンを相互に指定します。さらに Google はページの言語を可視テキストから判定するとしており、ナビゲーションだけを訳して本文を元の言語のまま残す構成は避けるよう案内しています。
機械翻訳の利用そのものは禁止されていません。ただしスパムポリシーの「大規模に生成されたコンテンツの不正使用」では、ユーザーに価値を加えないまま翻訳などの自動変換で大量のページを作る行為が例として挙げられています。機械翻訳で言語版を一括生成するなら、少なくとも検索流入を狙うページは人が確認してから公開する、という線引きが必要です。JavaScript で訳文を差し替える翻訳プロキシ型のサービスを使う場合は、言語別URLが発行されるか、hreflang と自己参照 canonical を出力できるかを導入前に確認してください。
どの方式をどの範囲に使うか決める手順
以下の順で進めると、議論が「どの翻訳会社が安いか」から「どのページにいくら払うか」に変わります。
- 対象ページを棚卸しし、目的で分類する(集客記事/製品・サービス説明/価格・契約条件/法務・規約/サポート/採用)。
- 各ページに重要度を付ける。判断材料は、問い合わせ・購入への寄与、誤訳時の法的・安全上のリスク、ブランド表現の比重の3つ。
- 更新頻度を記録する。月1回以上更新するページと、年1回程度のページを分けます。
- 重要度×更新頻度で方式を割り当てる。
- 重要度が高く更新が少ない(トップ、主要サービス、価格、規約)→人手翻訳。現地のネイティブによるレビューまで含める。
- 重要度が高く更新が多い(製品仕様、事例、お知らせ)→MTPE。修正範囲をフルで指定する。
- 重要度が低く更新が多い(ブログ、FAQの細目)→機械翻訳。公開前に担当者が通読する運用を最低限のルールにする。
- 重要度も更新も低いページ→翻訳せず、英語の要約ページ1枚に集約することも選択肢。訳すページを減らすのが最も確実なコスト削減です。
- 運用ルールを決める。原文を更新したときに翻訳を発火させる担当と手順、用語集の更新責任者、公開前チェックの担当者を文書化します。
予算配分の目安としては、人手翻訳に回すページを全体の1〜2割に絞り、残りをMTPEと機械翻訳で分担する形が検討しやすいはずです。初年度は人手翻訳の比率を高めに取り、公開後に Search Console の言語別の表示回数や問い合わせの内訳を見て、効果の出ているページに人手の予算を寄せ直すと無駄が減ります。
発注時に明記しておくこと
見積もりを比べる前に、次の項目を仕様として書き出しておくと、方式が違う会社の提案も同じ土俵で比較できます。
- 対象ページのURL一覧と、ページごとに求める方式・品質レベル(ライト/フルポストエディットの別を含む)
- 用語集・スタイルガイド・既存TMの有無と、納品時にTMを自社へ返してもらえるか
- 原文更新時の差分翻訳の単価と納期
- レビュー担当者(社内の現地メンバーか、翻訳側のネイティブチェックか)
- CMSやAPIとの連携方法、hreflang・canonical の出力責任がどちら側にあるか
特にTMの帰属は後から効いてきます。訳文の資産が手元に残らないと、次回の発注先を変えた瞬間に単価も用語も振り出しに戻ります。
まとめ
多言語化の判断は、翻訳方式の優劣ではなくページ単位の割り当ての問題です。まずは全ページの棚卸しと用語集の作成から着手し、重要度と更新頻度のマトリクスで方式を振り分けてください。言語別URLやhreflangの設計、CMSと翻訳フローの連携でつまずきそうな場合は、サイト制作と実装の観点からお問い合わせよりchot Inc.へご相談ください。
出典
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