Vercel Sandbox が全リージョン対応 — 東京・大阪を含むリージョン選択とフェイルオーバーの設定ポイント

2026年9月10日、Vercel Sandbox が Vercel のコンピュートリージョン全域で使えるようになりました。これまでは iad1(バージニア)、sfo1、cle1、cdg1 の4リージョンのみでしたが、東京(hnd1)や大阪(kix1)を含むすべてのリージョンが選べます。ただしデフォルトは iad1 のまま変わりません。日本の DB やストレージの近くでサンドボックスを動かしたい場合は、自分で明示的にリージョンを指定する必要があります。この記事では、変更点と設定方法、そしてスナップショットや Drive にまつわる制約を整理します。
変更点: 4リージョンから全コンピュートリージョンへ
Vercel Sandbox は、信頼できないコードや AI エージェントが生成したコードを Firecracker ベースの microVM で隔離実行するためのコンピュート基盤です。2026年8月24日のアップデートで4リージョンでのリージョン選択に対応し、9月10日のアップデートで「全リージョン」へ拡大しました。Vercel は公式チェンジログで「20 の Vercel コンピュートリージョン」と表記しています。
一方、ドキュメントの Sandbox Regions ページは本文で「19 リージョン」と書きつつ、一覧表には arn1 / bom1 / cdg1 / cle1 / cpt1 / dub1 / dxb1 / fra1 / gru1 / hkg1 / hnd1 / iad1 / icn1 / kix1 / lhr1 / pdx1 / sfo1 / sin1 / syd1 / yul1 の 20 件が並んでいます。数え方に差があるため、実際に使うリージョンコードは設定画面とドキュメントの一覧表で確認するのが確実です。少なくとも日本の 2 リージョン(hnd1・kix1)が一覧に含まれていることは、ドキュメント上で確認できます。
日本のプロジェクトで効くのは「データとの距離」
リージョン選択の目的は、ユーザーとの距離ではなくサンドボックスがアクセスする先との距離です。Vercel も、サンドボックスが参照するデータベース・オブジェクトストレージ・その他サービスに近いリージョンを選べばレイテンシが下がると説明しています。
具体的に効果が出やすいのは次のようなケースです。
東京リージョンの DB に対して、エージェントがマイグレーションやシードを何十回も往復させる処理
日本国内のストレージから大きめのデータセットを読み込んでテストやビルドを回す処理
国内の社内 API を叩きながら長時間動かすエージェントのセッション
逆に、外部の LLM API を呼んで待っている時間が処理の大半を占めるワークロードでは、リージョンを変えても体感は大きく変わりません。Active CPU は I/O 待ち時間を課金対象にしないと明記されているため、こうしたワークロードはコストの観点でもリージョン差が出にくい部分です。まずは「サンドボックスの中から最も頻繁に通信する相手はどこにあるか」を確認してから移す判断をしてください。
もう一つの動機はデータの所在です。Vercel は、承認済みのリージョンにサンドボックスのワークロードを留めることで、データレジデンシーや地域内処理の要件に対応できるとしています。Pro・Enterprise ではプライマリとフェイルオーバーの両方を承認済み地域に限定できるため、「フェイルオーバー先が想定外の国だった」という事故も設計段階で防げます。
リージョンの決まり方と設定方法
サンドボックス作成時のリージョンは、次の優先順位で決まります。
作成時に渡した region
プロジェクトのデフォルトリージョン(Settings > Sandboxes)
指定がなければ iad1
個別に指定する場合、SDK では Sandbox.create に region: 'hnd1' を渡します。CLI では sandbox create --name my-sandbox --region hnd1 のように --region を付け、sandbox run や sandbox fork でも同じオプションが使えます。作成済みのサンドボックスのリージョンは SDK の sandbox.region、CLI では sandbox list の REGION 列で確認できます。
プロジェクト全体の既定値は、ダッシュボードの Settings > Sandboxes の Sandbox Regions で設定するほか、vercel project update my-project --sandbox-region sfo1 --sandbox-failover-regions cle1,iad1 のように Vercel CLI(sandbox CLI ではなく vercel CLI)でも設定できます。空文字列を渡せば解除、vercel project inspect で現在値を確認できます。リージョン選択自体はすべてのプランで利用可能です。
注意点として、既存のサンドボックスは作成時のリージョンに留まります。デフォルトを変えても過去のサンドボックスは移動しません。また、新しく対応したリージョンを指定する前に、Sandbox SDK と CLI を最新版へ更新するようアナウンスされています。
フェイルオーバーリージョンの適用条件
フェイルオーバーは Pro・Enterprise 限定の機能です。プライマリリージョンで容量を確保できないとき、指定した順にフェイルオーバー先を試します。SDK なら failoverRegions: ['hkg1', 'sin1']、CLI なら --failover-regions hkg1,sin1 の形で指定します。
設定時に踏みやすい条件は次の通りです。
Hobby プランや Pro トライアルのチームはメインリージョンは設定できるが、フェイルオーバーは利用不可。指定すると payment_required エラーになる
Hobby へ移行した場合、既存のフェイルオーバー設定は無視される
フェイルオーバー先にメインリージョンを含めることはできない
Drive をマウントするサンドボックスではフェイルオーバーを併用できず、両方設定すると bad_request エラーになる
既存サンドボックスのフェイルオーバー設定は、SDK の sandbox.update に failoverRegions を渡す([] で解除)か、CLI の sandbox config failover-regions で変更できます。
スナップショットと Drive のリージョン制約
ここが移行時に最も詰まりやすいポイントです。スナップショットは作成元サンドボックスのリージョンに保存され、リージョン間を移動できません。別リージョンのスナップショットから作成・再開しようとすると snapshot_region_mismatch エラーになります。永続サンドボックス(最新スナップショットから再開する仕組み)やフォークにも同じルールが適用されます。
したがって、プロジェクトのメインリージョンを変更すると、そのリージョンに存在しないスナップショットからは新しいサンドボックスを作れません。環境を別リージョンで動かしたい場合は、そのリージョンで新しくサンドボックスを作り、セットアップを再実行してスナップショットを取り直す、という手順が必要です。なお、フェイルオーバー時はこの制約の例外で、Vercel が利用可能な最も近いリージョンからスナップショットを読み込みます。
Drive(永続ストレージ、ベータ)も単一リージョンに保存され、作成後に変更できません。マウントするサンドボックスは Drive と同じリージョンで動かす必要があり、違えば drive_region_mismatch エラーになります。さらに、Drive をマウントするサンドボックスにはプロジェクトの既定リージョンが適用されないため、Drive が iad1 以外にあるなら region を毎回明示する必要があります。
コストの見方
Active CPU、Provisioned Memory、Sandbox Data Transfer、Drive 関連の単価はリージョンごとに異なります。公式の料金表に載っている数値(Pro で Active CPU が 1 時間あたり 0.128 ドル、Provisioned Memory が 1 GB-hour あたり 0.0212 ドルなど)はデフォルトの iad1 の料金で、他リージョンの単価は Regional pricing のセクションでリージョンを選んで確認します。一方、Sandbox Creations とスナップショットストレージは、Sandbox が使えるすべてのリージョンで同一料金です。
つまり、リージョンを日本へ寄せる判断は「レイテンシ削減や所在要件のメリット」と「リージョン別の CPU・メモリ単価の差」の比較になります。移行前に、対象ワークロードの Active CPU 時間とメモリ GB-hour を Usage ダッシュボードで把握しておくと、単価差を掛けるだけで影響額を見積もれます。
移行時のチェックリスト
Sandbox SDK と CLI を最新版へ更新する
サンドボックスが最も頻繁に通信する相手(DB・ストレージ・社内 API)のリージョンを確認する
Drive を使っているかを確認する。使っている場合は Drive のリージョンに合わせ、region を明示する設計にする
永続サンドボックスやフォークを使っている場合は、移行先リージョンでスナップショットを取り直す前提でセットアップ手順を自動化しておく
Pro 以上なら、承認済み地域の範囲でフェイルオーバー先を順序付きで設定する
Regional pricing で移行先の単価を確認し、現在の使用量に掛けて差額を見積もる
全リージョン対応は、単に選択肢が増えただけの変更ではありません。スナップショットと Drive がリージョンに固定されるため、「どのリージョンで環境を作るか」が後から変えにくい設計上の決定になります。エージェント実行環境をこれから組むなら、最初にリージョン方針を決めてからスナップショットやプロジェクト既定値を設定するのが安全です。
AI エージェントの実行環境を Vercel Sandbox で構築する際の設計や、既存アプリケーションへの組み込みでお困りのことがあれば、お問い合わせからご相談ください。


