Figmaのファイルデータを日本国内に保存できるように — 対象範囲と導入時の確認点

2026年9月9日、Figma Japan が日本市場向けのデータレジデンシー(データ保存場所の指定)提供開始を発表しました。Figma Design・FigJam・Figma Slides・Figma Make のファイルデータを日本国内に保存できるようになり、対象はエンタープライズプランのオプションです。ただし「Figma のすべてのデータが国内に閉じる」わけではありません。コメントやファイル名、AI チャット、公開されたデータなどは対象外です。導入を検討するなら、まず自社が国内に置きたいデータが対象範囲に入っているかを確認するところから始めます。
発表された内容の要点
プレスリリースによると、提供内容は次のとおりです。
- 対象データ: Figma Design、FigJam、Figma Slides、Figma Make のファイルデータを日本国内で保存
- 対象プラン: エンタープライズプランを利用中のすべての組織がオプションとして利用可能
- 提供開始: 2026年9月9日から。詳細はアカウント担当者に問い合わせる形
Figma の公式ヘルプでは、データレジデンシーの保存先は AWS のデータセンターとされ、リージョン一覧に日本(プライマリ: ap-northeast-1、災害復旧: ap-northeast-3)が記載されています。プレスリリースで利用企業が触れている「東京・大阪」という表現は、この構成に対応します。なお、対象ファイルとしてヘルプ側では Figma Draw と Figma Buzz も挙げられており、プレスリリースの記載よりやや広い範囲が示されています。実際にどこまで含まれるかは、契約時にアカウント担当者へ確認するのが確実です。
国内に保存されるもの・されないもの
ここが判断の分かれ目になります。Figma のヘルプでは、ファイル内のデータ種別ごとにローカライズの対象/対象外が明示されています。
- 対象: シェイプ、テキストボックス、付箋、スタンプ、フレーム、コンポーネント、画像、動画
- 対象外: コメント、プラグイン、ファイル名、フォント、ファイルプレビューのサムネイル、Dev Mode / Code Connect のコード(inspect パネル)、AI チャット
- テキストボックスと付箋のうち @メンション部分はローカライズされない
さらに、ファイル外のデータ(課金情報、メタデータ、アクティビティ・セキュリティログ、ファイル検索用のインデックス、ユーザープロフィールなど)は対象外です。適用されるのは「保管時(at-rest)」のデータのみで、通信中(in-transit)のデータは対象外とも明記されています。ベータ版の製品・機能で作られたファイル内容や出力、Figma Weave の出力も範囲外です。
実務的に影響が大きいのは、コメントとファイル名が対象外である点です。仕様の議論や指摘をコメント欄に書き込む運用が定着していると、機密性の高い記述がコメント側に集まりがちです。ファイル名に案件名・顧客名を含める習慣も同様です。国内保存を有効にするなら、あわせて「どこに何を書くか」の運用ルールを見直す価値があります。
公開データとAI生成データの扱い
AI で生成されたファイル内容については、生成方法が保存場所に影響しないとされています。つまり、組織のデータ保存場所の設定に従って保存されます。一方、インターネット上に公開されたファイルデータ(サイトやアプリなど)は現時点でデータレジデンシーの範囲外で、米国でホストされます。Figma Sites などで公開まで行う場合、公開物は国内保存の対象にならないという前提で設計する必要があります。
個人情報保護法の観点では何が変わるか
「サーバーが国内になったから越境移転の論点が消える」とは言えません。日本の個人情報保護法では、外国にある第三者へ個人データを提供する場合に本人同意などの対応が求められます(法第28条)。ただし、クラウド事業者が保存された個人データを取り扱わないこととなっている場合は「提供」に当たらないという整理があり、この場合は同意取得の論点にはなりません。判断の鍵は保存場所ではなく、契約条項とアクセス制御の実態です。
また、安全管理措置の一環である「外的環境の把握」も残ります。個人情報保護委員会の FAQ では、外国にある第三者が提供するクラウドサービスを使う場合、当該外国の制度等を把握した上で安全管理措置を講じる必要があり、これは日本国内のサーバーに保存される場合でも同様だという考え方が示されています(特定個人情報に関する問答としての記載)。Figma を提供するのは米国法人であり、ログやメタデータは国内保存の範囲外です。データレジデンシーは「保管場所の統制を1つ増やす手段」であって、コンプライアンス対応そのものを置き換えるものではないと捉えるのが妥当です。
逆に言えば、社内規程や取引先の要件で「データの保存国を明示・限定すること」が求められているケースでは、これまで説明できなかった部分が説明できるようになります。要件が保存場所なのか、事業者の所在地なのか、アクセス権限の統制なのかを切り分けて確認してください。
設定の確認方法とGovernance+との関係
現在の保存場所は、ファイルブラウザから「Admin」→「Settings」タブ→ Data セクションの「Data storage localization」で確認できます。設定できるのは組織管理者のみで、保存場所の変更は Figma のサポートへの依頼が必要です。即時に切り替わる設定ではないため、リードタイムを見込んだ計画が必要です。
Figma は2026年5月に法人向けアドオン「Governance+」の提供を開始しています。公式ヘルプによると、IP アローリストやネットワークアクセス制限(NAR)による利用環境の限定、強制2要素認証、アイドルセッションタイムアウトの短縮(最短15分)、複数 IdP 対応、テキスト編集を記録する Discovery Pipeline などが含まれます。閲覧のみの権限でも既定で可能なエクスポートやローカルコピー保存を、組織単位で制限する設定もあります。保存場所(データレジデンシー)とアクセス統制(Governance+)は別の軸なので、規制業種であれば両方を並べて検討することになります。
導入を検討するときの判断手順
- 要件の言語化: 社内規程・顧客契約が求めているのは「保存国の限定」か「事業者の所在地」か「アクセス統制」か。求められている条文レベルまで確認する
- 対象範囲との突き合わせ: 国内に置きたい情報が、ローカライズ対象のファイルデータなのか、対象外のコメント・ファイル名・ログなのかを分類する
- プランの確認: エンタープライズプラン以外は対象外。プラン変更のコストと、得られる統制を比較する
- 運用ルールの整備: コメントやファイル名に機密情報を書かない、公開機能の利用範囲を決める、閲覧者のエクスポート可否を決めるなど、設定だけでは埋まらない部分を文書化する
- 移行手順の確認: 既存データの扱い、切り替えにかかる期間、影響範囲をアカウント担当者・サポートに確認する
なお、プレスリリースには利用企業から応答性向上への期待が寄せられていますが、Figma の公式ドキュメントで謳われているのは保管時データの保存場所の制御であり、性能改善は明示されていません。速度改善を主目的に導入を判断するのは避けたほうがよいでしょう。
まとめ
日本国内保存は、これまで保存場所を理由に Figma の利用範囲を絞っていた組織にとって選択肢を広げる変更です。一方で対象はファイルデータの一部に限られ、コメントやログ、公開データは範囲外です。まずは自社の要件を条文レベルで洗い出し、対象範囲と突き合わせることをおすすめします。デザインデータの運用ルールづくりや、Figma を前提としたサイト制作・フロントエンド開発の体制整備でお困りの際は、chot Inc. のお問い合わせからご相談ください。


