Cloudflare Clefとは:Workers AIの決定モデルの仕様・精度・導入判断

Clef(クレフ)は、Cloudflareが2026年10月1日に公開した「決定モデル」です。文章を生成せず、入力(state)と型付きの質問(questions)を受け取り、許可された選択肢ごとの確率を返します。27BのClefと9BのClef-flashの2種類があり、Workers AIでホスト提供されるほか、Apache 2.0で重みが公開されています。TypeSafe AIのJevと同じSystem One APIに対応するため、既存のJev連携はエンドポイントとモデル名の変更で切り替えられるとされています。結論を先に言えば、「選択肢が固定で、呼び出し回数が多く、応答速度が効く判断処理」に向く一方、要約や文章生成の代替にはなりません。以下、仕様と公開ベンチマークの読み方、導入時に確認すべき制約を整理します。
決定モデルとしてのClefの仕組み
Clefは1リクエストで最大64個の質問に答えます。質問は3種類です。
- noul:はい/いいえ。「はい」である確率を返す
- choice:自分で定義した選択肢から1つ選ぶ。選択肢ごとの確率と確信度を返す
- score:順序付きの評価基準(ルーブリック)に対して採点し、確率で重み付けしたスコアを返す
公式ドキュメントのサンプルは、サポート問い合わせの本文を渡して「緊急か」「どのチームが担当すべきか」「影響度はどのレベルか」を同時に尋ねるものです。返ってくるのは自由文ではなく確率付きの構造化データなので、パース処理や出力形式のゆらぎ対策が不要になります。
推論の仕組みも生成系LLMと異なります。Cloudflareの説明では、ベースモデル(ClefはQwen3.8-27B、Clef-flashはQwen3.5-9B)を凍結したうえで、プレフィルのみの1パスを実行し、スキーマ上の有効な選択肢を並列にスコアリングします。トークンを1つずつ生成しないため、応答が速いという構造です。従来の分類器との違いとして、分類カテゴリを追加するたびに再学習する必要がない点が挙げられています。
ClefとClef-flashの違いと選び方
公式のモデルページとチェンジログに記載された主な数値は次のとおりです。
- Clef(@cf/cloudflare/clef):27B、コンテキスト65,536トークン、100万入力トークンあたり$0.24、用途は「最高精度の判断」
- Clef-flash(@cf/cloudflare/clef-flash):9B、コンテキスト65,536トークン、100万入力トークンあたり$0.09、用途は「レイテンシが重要なホットパスの判断」
- どちらも画像入力に対応(1リクエスト最大4枚)
- Cloudflare自社計測のレイテンシ中央値はClef 209.3ms、Clef-flash 38.8ms、p95はそれぞれ238.6ms、122.4ms
単純に「大きい方が精度が高い」とは言い切れません。公式の10ベンチマーク表では、BFCL(98.76対98.47)や家電分類(97.73対82.95)のようにClef-flashがClefを上回る項目がある一方、CLINC150+OOSではClefの97.43に対しClef-flashは66.77と大きく落ちます。タスクによって優劣が入れ替わるため、まずClef-flashで自分のデータを評価し、不足する項目だけClefに上げるのが合理的です。価格差も約2.7倍あります。
公開ベンチマークをどう読むか
Cloudflareは、Jev Decision Indexから選んだ10ベンチマークのうち7項目でClef系が最高スコアだったとしています。ただし表を素直に読むと、When2Call(Jev 80.97対Clef 72.37)やBRIGHT(Jev 47.52対Clef 45.91)ではJevが上で、PhishNChips(精度)では別モデルのDiffusionGemma Jevが85.35で首位です。TypeSafeのワークフロー評価では4領域中3領域でJevを上回ったとされ、エージェントトレース観測性ではJevが71.6で勝っています。
ここで重要なのは、これらがすべてCloudflare自身の測定値であることです。中立な環境での第三者による再現結果は、現時点で確認できていません。技術メディアの比較記事では、Jevのホスト価格が100万入力トークンあたり$0.042と紹介されており、単価だけ見ればClefの方が高い点も指摘されています。つまり選定基準は「ベンチマーク総合点」ではなく、自社タスクでの精度×許容レイテンシ×1判断あたりのコストの組み合わせになります。
向く用途と、確率出力の設計上の意味
Cloudflareが挙げるユースケースは、サポートチケットのトリアージ、ドメイン分類による脅威インテリジェンス、Trust & Safetyの投稿スコアリング、ツール呼び出し前のエージェントのガードレール、画像の分類です。自社のThreat Intelligenceチームでの検証では、Browser Runと組み合わせてドメインの取得・レンダリング・分類を2.2秒で完了し、同じワークフローでgpt-oss-120bは4.7秒かかった(しかも返した分類は2つのみ)と報告されています。
実装者にとっての本質的な利点は速度よりも確率が返ることだと考えられます。確率が得られれば、「0.9以上は自動実行、0.6〜0.9は保留キュー、それ未満は人間へエスカレーション」のように、自動化の境界を数値で設計できます。Cloudflareは学習時にBrier損失で確率のキャリブレーション(予測確率と実際の的中率の一致度)を調整したとしており、閾値設計を前提とした使い方が想定されていると読めます。逆に、文章生成・要約・知識を問う質問はClefの役割ではありません。LLMと併用し、判断はClef、実行はLLMという分担が公式の想定です。
導入前に確認すべき制約
モデルページに明記されている制約は、見落とすと設計をやり直すことになります。
- 画像はPNG/JPEG/WebPの埋め込みのみで、リモートURLは受け付けません。最大4枚、各4MiBかつ1,600万画素以内、デコード後合計8MiB、リクエスト本文は最大13MiB
- stateが長い場合はモデルのトークン上限に合わせて切り捨てられます。重要な情報は前方に置く設計が必要です
- 質問は1〜64個。質問IDは英数字と「_」「.」「-」で最大100文字
- データ取り扱いについて、Cloudflareはリクエストとレスポンスを読まない・保存しない・学習に使わないと明記しています(ファインチューニング製品を利用する場合を除く)
- 重みはApache 2.0でHugging Faceに公開されており、自社GPUでの実行も可能です。ホスト費用の回避やデータ所在の要件がある場合の選択肢になります
同時に発表されたRL(強化学習)によるファインチューニングは、まずCloudflareのFDE(フォワードデプロイドエンジニア)チームとの協業から始まり、セルフサーブ化は後続とされています。AI Gatewayでリクエストを蓄積し、Containersで評価、新コンポーネントのTrainerで重みを更新してWorkers AIに再デプロイする構成が示されていますが、価格は公表されていません。自前データでの最適化を前提に計画を立てるなら、現時点ではデザインパートナーとしての申し込みが窓口になります。
評価を始める具体的な手順
- 既存の運用ログから、人間が下した判断とその結果を100〜300件ぶん、正解ラベル付きで抽出する
- その判断をnoul/choice/scoreのスキーマに翻訳する。choiceのcriteriaは選択肢間で粒度と文体を揃える(曖昧な説明文が精度を下げやすい)
- Clef-flashで一括評価し、正解率とあわせて確率分布を確認する。高確率帯での誤りが多ければ閾値では救えないため、Clefまたは追加学習を検討する
- 自動実行・保留・人間対応の閾値を決め、人間に回る割合を運用体制と突き合わせる
- 1判断あたりの入力トークン数を実測し、$0.09/$0.24の単価に月間件数を掛けてコストを見積もる
- 本番投入後はAI Gateway経由でログを残し、同じ評価セットで定期的に再測定する
この手順の価値は、Clefを採用するかどうかに関係なく残ります。判断の評価セットと閾値の基準が手元にあれば、別の決定モデルやLLMに乗り換える判断も同じ土台で下せます。
Clefは、ベンチマーク上の優位がまだ自己申告段階である一方、Jev互換API・オープンな重み・エッジでの低レイテンシという点で検証コストの低い選択肢です。既存のサポート対応や審査フローのどこを自動化できるか、確率に基づく閾値設計をどう組むかといった設計段階で判断に迷う場合は、Webアプリケーションとフロントエンド、AIアプリケーション開発を手がけるchot Inc.にもお問い合わせください。
出典
- Cloudflare Blog: Clefの紹介 — オープンソースの決定モデルと新しいRLファインチューニング基盤
- Cloudflare Docs 変更履歴: Clef — Workers AIで提供される初のオープンソース決定モデル
- Cloudflare Workers AI ドキュメント: clef モデルページ
- Cloudflare Workers AI ドキュメント: clef-flash モデルページ
- Hugging Face: Cloudflare/clef モデルリポジトリ
- MarkTechPost: CloudflareがClefとClef-flashを公開 — 型付き確率を返すオープンウェイト決定モデル


