Vercel Speed Insights が全プランで無料に ― 無料枠の中身とPlusを選ぶ基準

Vercel の Speed Insights に無料ティアが追加されました (2026年8月25日の更新)。Hobby・Pro・Enterprise のどのプランでも、プロジェクト数の制限なく実ユーザーのパフォーマンスを計測できます。無料枠はチーム全体で直近30日あたり10,000イベントです。従来の有料版は「Speed Insights Plus」へ改称され、すでに課金していた場合は名称以外に変更はありません。
一方で無料ティアの指標は Real Experience Score (RES、実ユーザーの体験を総合したスコア) のみ、期間は24時間と7日に限られます。どこまで無料で足りるのか、どの条件で Plus や Google の CrUX に頼るのかを、公式ドキュメントの条件から整理します。
変わったのは「プランをまたいだ継続性」
以前の無料枠は Hobby の1プロジェクトに限定され、Pro へアップグレードするとアドオンを購入しない限りアクセスを失う仕組みでした。今回の変更で無料枠はプランをまたいで引き継がれ、追加機能が必要になったときだけ支払う形になりました。
実務上の意味は、計測の最低ラインを全プロジェクトに敷けることです。サイトを複数抱えているチームでも、まずは全案件に @vercel/speed-insights を入れて RES の推移だけは常時見える状態にし、改善フェーズに入ったプロジェクトだけ Plus に上げる、という段階的な運用が取りやすくなりました。
無料ティアと Speed Insights Plus の差
公式の料金ページによると、両者の違いは次の通りです。
- 料金: 無料ティアは全プランで無料、プロジェクト料金もイベント課金もなし。Plus は Pro で1プロジェクトあたり月額10ドル+イベント従量課金 (10,000イベントあたり0.65ドル、無料枠なし)。Enterprise は Plus が契約に含まれる
- 指標: 無料は RES のみ。Plus は FCP・LCP・INP・CLS・TTFB の全 Core Web Vitals
- 内訳: 無料はパス/ルート別の件数で Great と Needs Improvement のみ。Plus は Poor の項目、国別、要素セレクタ別まで
- 期間: 無料は24時間と7日。Plus は Pro で30日、Enterprise で90日
- データの持ち出し: Drains と Vercel CLI は Plus のみ
つまり無料ティアは「遅くなったことに気づく」ための装置で、「どこがなぜ遅いのか」を詰めるには Plus が必要です。Hobby チームは Plus を使うには Pro へのアップグレードが前提になります。
10,000イベント/30日をどう見積もるか
無料枠の条件には、押さえておきたい挙動がいくつかあります。
- 10,000イベントはチーム共有で、暦月や請求サイクルではなく直近30日のローリングウィンドウで判定される
- 上限に達すると、無料ティアのプロジェクトは最低14日間、収集が停止する。直近30日の使用量が無料枠の半分を上回っている間は停止が続く
- 停止してもサイトの稼働には影響せず、無料枠では超過課金も発生しない
- Plus のプロジェクトは無料枠を消費せず、無料枠が上限に達しても停止しない
- 計測対象は本番だけでなく、プレビューを含む全デプロイ環境
重要なのは、超過が「課金」ではなく「2週間以上のデータ欠落」として返ってくる点です。リリース直後に数字を見たいタイミングで止まっていては意味がありません。イベントがおおむねページビュー単位で発生すると見れば、10,000件/30日はチーム全体で1日あたり300件強のページビュー相当という粗い目安になります。プレビュー環境へのアクセスも積み上がるため、月に数万 PV を超えるサイトや、プレビューを多用するチームは、既定の全件送信のままだと早々に枠を使い切る前提で設計したほうが安全です。
削減の手段は2つ用意されています。パッケージの sampleRate (0〜1) で送信割合を下げる方法と、beforeSend で管理画面などのパスを除外する方法です。Vercel の学習教材では sampleRate={0.25} を例に、回帰を検出できる粒度を保ちながらコストを予測可能にする設定が示されています。サンプリングを下げるとグラフが埋まるまでに時間がかかり、低トラフィックのページでは精度が落ちるため、トップページや主要導線だけを残して管理画面やプレビューを落とす、といった併用が現実的です。
CrUX・PageSpeed Insights との役割分担
実ユーザー計測なら Google の CrUX (Chrome ユーザーエクスペリエンスレポート) も無料で参照できます。ただし CrUX は28日間のローリング平均で、統計的に有意な訪問者数がないオリジンやページはデータセットに含まれません。公開前のサイトやプレビュー環境も当然対象外です。
したがって、SEO の観点で「Google がどう評価しているか」を見る基準は CrUX、自分たちの変更が効いたかを短いサイクルで確認する手段は Speed Insights、と分けて考えるのが合理的です。無料ティアの24時間・7日という期間は CrUX の28日平均より反応が速く、トラフィックが少なく CrUX にデータが出ないサイトでも数字が取れます。この2つは代替ではなく補完関係にあります。
導入手順と設定時の注意
@vercel/speed-insightsをインストールする- ルートレイアウトにコンポーネントを置く。Next.js App Router は
@vercel/speed-insights/nextのSpeedInsights、Remix・React・Vue・Astro には各専用のエントリポイント、SvelteKit やその他の環境はinjectSpeedInsights()を使う。HTML のみのサイトはスクリプトタグで対応できる - Vercel にデプロイする。収集用のルートはデプロイに自動で含まれる
- ダッシュボードのプロジェクト → Speed Insights でデータを確認する
パッケージはローカル開発では送信を行わないため、デプロイ後でないと動作確認はできません。URL にメールアドレスや ID などを含む設計なら、beforeSend で送信前に除去する処理を最初から入れておくべきです。Plus を使う Pro チームは、Spend Management で上限額の通知や自動停止を設定しておくと従量課金の読み違いを防げます。
次に取るべき判断
まずは全プロジェクトにパッケージを入れ、RES の推移を見える状態にするのが出発点です。その上で、月のページビュー規模から無料枠を使い切るかどうかを試算し、超えそうなら sampleRate と beforeSend で送信量を設計します。LCP や INP の内訳まで追って改善を回す段階、あるいはデータを外部の分析基盤に流したい段階に来たら、そのプロジェクトだけ Plus に上げる判断になります。
計測の仕組みは入れただけでは成果になりません。どの指標を基準に、どのルートから直すかを決めるところが本番です。Core Web Vitals の改善や Next.js アプリの設計・運用でお困りのことがあれば、お問い合わせからご相談ください。
出典
- Vercel チェンジログ: Speed Insights に無料ティアが追加されました
- Vercel ドキュメント: Speed Insights の制限と料金
- Vercel ドキュメント: Speed Insights を始める
- Vercel ドキュメント: Speed Insights の概要
- Vercel ドキュメント: Observability の使用量の管理と最適化
- Vercel ドキュメント: 使用量とコストの管理
- Vercel Academy: Observability のサンプリング
- Chrome for Developers: CrUX の概要
- Chrome for Developers: CrUX のツールと更新頻度


