Dreamforce 2026 発表まとめ:AIforce と Koa が示す「UIを前提にしない」Salesforce

Dreamforce 2026 は 2026年9月15日〜17日、サンフランシスコの Moscone Center で開催中です(Salesforce+ で無料配信)。初日の中心は新発表「AIforce」でした。要点は 1 つで、Salesforce は「ユーザーが Salesforce の画面に来る」前提を外し、Claude や Slack など普段使う AI インターフェース側にデータ・権限・業務ロジックを持ち出す方向に舵を切りました。加えて CRM 特化の推論モデル「Koa」も発表されています。既存の Salesforce ユーザーがまず確認すべきは、新機能の一覧ではなく自社の権限設計とデータ整備の状態です。
開催概要と追いかけ方
会期は 9月15日〜17日の3日間、会場は Moscone Center(North/South/West)。Salesforce の日本語ブログでは今年が23回目の開催で、1,600以上のブレイクアウトセッションと150以上のトレーニングが用意されると案内されています。テーマは「Agentic Enterprise(エージェント型企業)」です。
現地に行かない場合も、基調講演と主要セッションは Salesforce+ で無料配信され、会期後はオンデマンドで視聴できます。Salesforce のメディア向け資料では、対面参加5万人以上、Salesforce+ でのオンライン視聴12.2万人以上、150以上の国からの参加を見込みとしています。時差の関係で日本からのリアルタイム視聴は深夜〜早朝になるため、キーノートはアーカイブ前提で計画するほうが現実的です。
初日の最大の発表:AIforce
AIforce は Salesforce が「ライブインターフェースレイヤー」と呼ぶ新しい層です。Salesforce 内部にあるデータ、ワークフロー、業務ロジック、セマンティクス、権限、セキュリティ、ガバナンスを、任意の AI インターフェースから利用できるようにするものです。従来はアプリを開いて画面を辿らなければ届かなかった情報に、会話や自然言語の指示から到達できるようになります。
公式発表で挙げられている性質は、(1) 複数データやロジックを横断して推論する、(2) 既存の権限と業務ルール上で動作し、依頼した本人が見える範囲しか見えない、(3) 説明するだけでインターフェースやビューを構成できる、(4) Zero Data Retention(業務データはモデル提供者側に保持されない)、(5) 新しい権限モデルや移行を必要とせず既存環境に接続する、の5点です。
AIforce は 3 つの「面」とともに提供されます。
- Claudeforce:Anthropic との提携。Claude 内に Salesforce の MCP サーバーが事前構築済みで入る「Salesforce in Claude」として提供され、営業向けの37のスキルが最初から使えます。全顧客向けにベータ提供中で、Claude Code 用の開発プラグイン(40以上のスキル)も公開されています。
- Slackforce:Slack 側から Salesforce の文脈を扱う仕組み。Slackforce Surfaces でライブな対話型ビューを作れるほか、Slackbot、Slack CRM、チームで AI 開発を行う Slack Code が含まれます。
- Agentforce Coworker:Lightning 画面内で動く AI の同僚。既存の権限とルールの内側で動き、すでに作ってある Agentforce エージェントを呼び出します。Salesforce は提供開始から35日で10万ユーザーが有効化したとしています。
これらの土台にあるのが、プラットフォームの要素を MCP・API・プラグイン・スキルとして公開する Headless Toolkit と、パートナー製の連携を流通させる AgentExchange です。UI が製品の本体ではなく、権限とロジックを持つプラットフォームが本体であるという位置づけが明確になりました。
Koa:CRM に特化した推論モデル
もう一つの技術的な発表が、NVIDIA Nemotron 3 Super をポストトレーニングした Salesforce 初の CRM 推論モデル「Koa」です。学習には顧客データを使わず、14以上の業種の業務シナリオを模した合成データを用いたと明記されています。Salesforce は自社の CRM ベンチマークで、CRM 上の操作について主要モデルと同等以上の性能を、エラー3分の1で達成したとしています。重みは Salesforce が保持し、推論も自社のトラスト境界内で実行されます。
提供状況は、Koa が一部パイロット顧客向けで、一般提供は2026年冬に米国リージョンで予定。政府・規制業種向けの Missionforce Operations は米国リージョンで提供中、ポストトレーニング済み NVIDIA モデルは2026年10月に一部顧客向けとされています。汎用モデルを外部に投げるのではなく、業務特化モデルを境界内で動かす選択肢が増えた、と読むのが妥当です。
パートナー連携から読み取れる方向
初日には AWS、Google Cloud、NVIDIA、Siemens との連携も相次いで発表されました。共通しているのは、特定のモデルや画面に囲い込むのではなく、MCP を含む相互運用の口を開けて「どのツールからでも Salesforce の文脈を使える」状態を作ろうとしている点です。Claude、Slack、Lovable や Vercel といった AI ビルダー、Docusign などのツールが同じ土台に並ぶ構図になっています。
裏を返せば、優位性の源泉は「どのモデルを使うか」ではなく「どれだけ信頼できる文脈(データ・権限・業務ロジック)を整えているか」に移ります。公式サイトの Data 360 キーノート紹介も同じ主張で、AI は誰でも同じものを使えるため、差はエンタープライズの文脈にあると説明されています。
Salesforce を使う企業が今から確認すべきこと
発表を追うだけでは判断材料になりません。次の順序で自社の状況を点検するのが実務的です。
- 権限設計の棚卸し:AIforce は既存の権限とルールに従って動きます。つまり現在の権限設計の粗さがそのまま AI 経由の情報露出の粗さになります。プロファイル・共有設定・項目レベルセキュリティの見直しが最初の作業です。
- 外部インターフェース経由のアクセス方針:Claude や Slack から CRM を操作できる状態を、どの部門・どの役割に許すかを決めます。MCP 経由の操作ログをどう監査するかも合わせて設計します。
- データ保持とコンプライアンスの確認:Zero Data Retention や推論の実行場所は発表文に記載がありますが、価格・パッケージ・提供地域は変更され得ると明記されています。日本リージョンでの提供可否と契約条件は必ず自社の契約で確認します。
- 提供段階の切り分け:ベータ(Salesforce in Claude)、パイロット(Koa)、提供中(Agentforce Coworker)が混在しています。稟議や年度計画に載せる際は、GA 予定時期で区別して扱う必要があります。
- 業務手順とトレーニングの前提変更:画面操作を前提にした手順書や教育コンテンツは、会話型の操作が入ると陳腐化します。まずは 1 部門で小さく試し、どこまで自然言語に寄せられるかを測るのが安全です。
開発・実装側への影響
開発者にとっての変化は、画面を作る仕事から、エージェントが安全に使える「意味論と権限のインターフェース」を整える仕事への比重の移動です。MCP サーバー、API、スキル、Claude Code プラグインといった形で足がかりが用意されたぶん、どのデータにどの操作を許すかの設計判断が成果物の質を決めます。Slack Code のように AI 開発をチームの共同作業に寄せる仕組みも出てきており、レビューや知識共有のやり方も見直し対象になります。
Dreamforce 2026 は9月17日まで続き、セッションは Salesforce+ で順次公開されます。まずは AIforce と Koa の公式発表で提供段階と前提条件を確認し、そのうえで自社の権限設計とデータ整備の現状を点検するのが、今週やるべき現実的な一手です。


