AI時代こそ「誰かがもう一度見る」を。AI加工から考える落とし穴

「写真の明るさを変えただけ」
そのつもりだったのに、商品名の文字が別のものに変わっていた。2026年8月、そんな出来事がありました。
頼んでいないところまで変わる
味の素が運営するレシピサイト「味の素パーク」の公式アカウントが、8月14日に「ほんだし」を使ったレシピの画像を投稿しました。ところがパッケージの文字が崩れており、指摘が相次ぎます。
同社は2日後の8月16日に謝罪し、経緯をこう説明しました。
実写写真をAIにて明るさ・背景の変更などを行った結果、文字やラベルが崩れてしまった状態で公開してしまいました。確認が不足しており大変申し訳ありません。(※1)
あわせて加工前の写真も公開しています。何がどう変わったのかを、自ら見せた形です。 経緯の説明としては、かなり率直な部類だと思います。
ゼロから画像を生成したわけではありません。撮った写真を、明るくしようとしただけです。
ここが従来の画像編集と決定的に違うところです。これまでの編集ソフトで明るさを変えても、文字が別の形になることはありませんでした。元の画素の明るさを計算し直すだけだからです。
一方、AIによる加工は画像を作り直します。指示したのは明るさでも、指示していない部分まで「それらしく」描き直される。 文字は特に苦手な領域で、日本語のような複雑な文字ほど崩れます。
つまり、「一部だけ直したつもり」が成立しません。ここが見落とされやすい点です。
同じ失敗が、何度も起きている
これが1社の不注意なら、記事にする話ではありません。ただ、同じ構造の事故が続いています。
2025年11月には、国土交通省のダム管理支所が紅葉と虹の風景写真をAIで色調整してSNSに投稿し、指摘を受けて削除しています。ほかにも、写り込んだ人物にぼかしを入れようとして別の部分まで変わってしまった例が、この夏だけで複数報じられました。(※2)
いずれも「加工したつもり」でした。 生成を依頼したわけではなく、既にある写真に手を入れただけ。それでも、頼んでいない部分が書き換えられていた。
企業でも官公庁でも起きている。担当者の注意力の問題として片づけられる範囲を、すでに超えています。
問題は「AIを使ったこと」ではない
こうした事例が続くと、「企業はAIを使うべきではない」という結論に向かいがちです。
ただ、それでは解けません。
私たちが普段使っているスマートフォンのカメラも、撮影時に複数の画像を合成し、明るさや細部を自動で補正しています。意識せずに、加工された写真を日常的に受け取っている。「AIを使わない」という線引きは、実務上もう引けないところまで来ています。
それに、AIを使っても問題が起きていないケースのほうが圧倒的に多いはずです。同じツールを使って、事故になる場合とならない場合がある。 違いは使ったかどうかではなく、別のところにあります。
「最後に人が見る」が、工程に入っているか
味の素の説明で、最も重要なのはこの一文だと思います。
「確認が不足しており」
崩れた文字は、拡大すれば誰でも気づくものでした。技術的に発見が難しかったわけではありません。見る機会がなかった、あるいは見る人が決まっていなかった。
ここで、注意深さの話にすると再発します。人は忙しければ見落とします。担当者が変われば基準も変わる。
必要なのは、確認が工程として組み込まれていることです。
誰が見るのか。作った人とは別の人であること。 自分で作ったものは、思い込みで読んでしまう。「そのつもりで作った」ので「そのつもりで見える」
何と比べるのか。AI加工の場合、元の画像と並べれば一目で分かる
どこを見るのか。文字、ロゴ、数字、固有名詞。AIが苦手な箇所は決まっている
公開前に止まる仕組みがあるか。承認しないと出せない状態になっているか
最後の一つが特に大きい。「見よう」という意識ではなく、「見ないと出せない」という作りにする。 ここが分かれ目です。
サイトの更新でも、同じことが起きる
ここまではSNS投稿の話でした。ただ、この構造はサイトの更新でもそのまま当てはまります。
商品ページの写真をAIで加工して差し替える。文章をAIに整えてもらって公開する。バナーの色味だけ変えるつもりで生成し直す。どれも実際に行われていることです。
そしてサイトの場合、SNSより気づかれにくいという問題があります。投稿は多くの人のタイムラインに流れますが、サイトの下層ページは誰も見ていないことがある。間違ったまま何ヶ月も置かれる可能性があります。
さらに、更新を外部に委託している場合。依頼した側は完成したものしか見ないので、何がどう変わったのかを比べられません。
確認する場所は、作るときに決まる
ここが、私たちがこの話を持ち出す理由です。
「公開前に承認を通す」「変更前と後を並べて見られる」「誰がいつ何を変えたか記録が残る」。こうした仕組みは、後から意識で足せるものではありません。サイトを作るときに、どういう更新の流れにするかを決めた時点で、できることが決まります。
作ったあとに「これからは気をつけよう」で運用するのか。それとも、気をつけなくても止まる作りにしておくのか。
とはいえ、いきなり全部を整える必要はありません。まずは自社サイトで、いま誰がどこまで確認しているか。そこに人の注意力以外の仕組みがあるか。この2つを見るところからで構いません。
現状を伺えれば、どこから手をつけるべきか整理できます。
出典
※1 味の素パーク 公式X(2026年8月16日)/ITmedia NEWS「『ほんだし』のラベルがAIでぐちゃぐちゃに…… 味の素、公式Xの投稿画像について謝罪」(2026年8月17日) https://www.itmedia.co.jp/aiplus/article/2608/17/2000000564/
※2 Yahoo!ニュース エキスパート・篠原修司「味の素、生成AIで編集した写真が原因で炎上→謝罪。明るさを調整したつもりがなぜ別物に変わるのか?」(2026年8月) https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c6c8d1d8b650bdebced9a0bcc769cfc243d23c76